「君は? この頃どうなの?」

 増家はふうと煙を吐く。「変わらんよ。下に小馬鹿にされながら上にこき使われてる」

 「それはそれは」と苦笑すると、増家は「切ないよな」と同じように言った。

 「どう、楽しいの?」

 「楽しくはねえさ。こんなことするために今までやってきたわけでもない」

 増家は煙草を咥える。

 「ふうん」と返して、僕は珈琲を啜った。「じゃ辞めちゃえば?」

 「そう言うと思ったぜ」と増家は笑う。「それができりゃあ、苦労しねえんだよ」

 「なんでできないの?」

 「辞めたらもう見つからんのだよ、お仕事が」

 「自尊心だの欲だのを捨てれば、仕事なんざごろごろしてると思うんだけど。そうでもないのかな」

 「おれには欲もプライドもないよ」

 「それなら、今の仕事を辞めてコンビニやらスーパーやらで働けばいい」何を言っているんだ。増家は目でそう言う。僕は僅かに口角を上げる。欲もプライドもないんでしょう? 「そういう店なら近くにいくらでもあるし、特別な知識も経験も求められない。君ほどの人がそんな店に飛び込めば、さぞ大切にされるでしょう。適度に調子に乗れるほどになれば、時給を上げてもらうよう交渉してもいい」

 「なんでそんなことしなくちゃならん」

 「嫌?」

 「嫌……と言うのは、なんか悔しいけど」

 増家がふうとついた息が、白い煙としてゆらゆらと漂う。

 「まあ、辞めたら他に仕事が見つからないという理由で辞めたくなくて、この形も嫌と言うなら、不満を抱えながら現状維持の他ないかもね」

 「端から辞める気もないけどな」

 「そう。不満のある日常なんて楽しくないだろうに」

 「楽しくはねえけどよ。でもほら、休日にはこうしてお前と遊べば」

 「これがストレスの解消になるなら、なんの相手にもなるけど」

 「どんなことでも?」

 「双方が罪に問われないものなら」

 「献身的だねえ。お前みたいな奴こそ、どこかに就職した方が企業にも喜ばれるんじゃないか?」

 「君は求められてないと感じてるの?」

 「そういうわけじゃあねえけど」