遊戯部屋に戻り、二度目の対局をした。

 「そういえば、岸根は最近なにしてんの?」

 「なに、というと?」

 「仕事とかさ」増家はポーンを動かした。

 「仕事……は、まあ。今まで通り。なにも変わってはいないよ」同じようにポーンを進める。

 「へええ。よくもまあ、あんな難しいこと続けてるな」

 僕はふっと苦笑する。「しかし、君という人は嫌味を言わせたら世界一だね」

 「お前がひねくれてんだよ」よっと、と、増家は駒を動かす。僕は彼の算段を狂わせるように返す。

 「それはどうかな。君のような人は、無意識に嫌味を発す」

 ええ、と増家は声を発す。僕の言葉に対してか、一手に対してかはわからない。

 「おれみたいな人って、それほど少数派でもないと思うぜ?」

 ほい、と駒を動かす。僕は黙って想像通りに駒を動かす。

 「そうだね。君のような人は、いっぱいいる」

 「でも、こんなおれらみたいな人は、本気で、純粋にそう思ってるんだぜ?」

 「それがより痛かったりするんだよ」

 「なぜ自信を持たない? お前には優れた点が山ほどある」

 増家はゆったりした手つきで駒を動かす。それには迷いのようなものが滲んでいた。

 「山ほどより、星の数ほどほしいんだ」

 僕が駒を動かすと、増家は、ええと呟く。どうしようもないとでも言うように一手を打つ。

 「大差ねえじゃねえか」

 「山のように一つ二つどんとあるより、あちこちで輝ける方がいいなと思ってるんだ。尤も、僕にはその山のような一つ二つの優れた点もないけどね」

 今度は増家が苦笑した。「お前みたいな奴の方が、よっぽど嫌味ぶちかましてくると思うんだが?」

 「そうかい?」そりゃどうもと返すと、一ミリも褒めてねえと返ってきた。

 ふっと盤上に手をやると、動かすつもりのない駒に触れてしまった。仕方なくそれを動かすと、己の分身を守るものが消えた。よっしゃと言うように、増家の表情が明るくなる。「チェックだ」と言う彼へ、「チェックとチェックメイトはイコールじゃないよ」と返し、分身を避難させた。「こりゃあ長い闘いになりそうだ」と、増家は困ったように笑う。