オセロ盤を見て、僕が「あっ」と声を発すと、男は「おお」と続いた。

 「よっしゃ勝った」

 「負けた」

 「まじか。前回あんな惨敗したのに」

 勝たせてくれたのかと言う男に、僕はまさかと返す。

 「本気でやった?」

 「もちろん」

 「いやあ、嬉しい。調子悪かったか?」

 「……ううん」

 「もう一回やっていい?」と言う男へ、「ごめん」と短く返す。

 「……この後、ちょっとやらなきゃいけないことがあって」

 「ああ、そうか。悪かったね、付き合わせちまって」

 「いや、別に」

 男はよっこいしょと腰を上げた。ソファの前に移動すると、さっとパーカーを羽織り、鞄を肩に掛ける。

 「そんじゃ、おれは帰るわ。楽しかったぜ、また相手してくれよな」

 「うん」

 気を付けてねと続けると、男はおうよと言って学ランのポケットから携帯電話を取り出した。メールを受信したのか、少しするとこちらを振り返った。

 「お水買ってきて、だとさ」

 重いんだよなあと言うと、男は「じゃあな」と手を振った。

 「また」と僕も同じように返す。