好きなことをする。嫌いなことはしない。楽しさや幸福感をもたらすものに触れる。嫌気がさすものには触れない。人生を楽しむというのはしかし易いことだ。もしもこんなことを実際に言葉にして発せば、僕を愚かだと思う人も、成長しないと思う人もあろう。それでも構わない。僕はもう、成長やら高みやらに拘らない。楽しければいいのだ。

 困難を乗り越えたときに、人は強くなる。成長する。僕はそれに疑問を抱いている。経験でなくとも、知識さえあればどうにかなるのではないだろうか。知識はいかなる場面でも役に立つ。僕が何年も前より肝に銘じていることだ。

 僕は冷蔵庫から茶碗を取り出し、作業台に置いた。先に濾しておいた抹茶を、茶杓三杯分、茶碗に入れ、冷水を少量注いで、茶筅で艶が出るまで混ぜる。百ミリリットルの冷水を加え、細かい泡が立つまで点てる。

 通っていた高校に、茶湯部なる小洒落た部活があった。活動は週に一度で、もう一つの部活と掛け持ちしていた。この冷抹茶の点て方は、その茶湯部で豆知識のようにちらと教えられたものだ。実際に飲んでみると美味で、今も夏には、こうして点てては夏季限定の練り切りと飲んでいる。