白い外壁、真紅の屋根の平屋。煉瓦調のブロック塀に、無用心にもでかでかと連絡先を記した張り紙。ああ、ここだ。わたしはブロック塀の間から敷地に入り、微かな緊張感とともに足を進める。昨日も見たが、しかし大きな庭木だ。なんの種類なのだろうか。もくもくとした雲を抱く青空の下、蝉の声と気まぐれに吹く乾いた熱風に青々とした葉を揺らしている。

 和とも洋ともとれない石畳がいくつか並び、ブロック塀から十メートルほどで玄関前に着いた。玄関扉は引き戸だが、これもまた和にも洋にも属さないようなものだった。呼び鈴のボタンを押すと、なんの変哲もない間の抜けたような音が二度繰り返された。五秒ほど蝉の声を聞いたかという頃に、引き戸ががらりと開いた。「こんにちは」と言う家主を見て、どきりとした。白に限りなく近い艶やかな金髪に、無駄なもののない白い肌、儚さと優しさを併せ持った双眸は、向かって左は茶色、向かって右は薄い緑色をしている。顔立ち自体も美しく、人形――ドールと呼ぶ方が多いもの――のようだと思った。

 彼はふっと、穏やかな表情を浮かべた。

 「君だったんだね」

 「……え?」

 「なんでもない」

 「わたしのこと、知ってるんですか?」

 「まあね。さあ、蝉が元気に歌う時期です、さぞ暑かったでしょう」お上がりください、と彼は続け、中に入っていった。「失礼します」と言って後に続く。

 「……庭の木、随分大きいですね」彼の後に続いて廊下を歩きながら、わたしは言った。彼はある扉の前で足を止めると、「美しいでしょう?」と笑みを見せた。

 「美しい?」あなたがということならば否定はしませんがと言いたくなった。

 彼はふわりと、どこかに憂いを感じさせるように微笑んで、がちゃりと扉を開けた。