電源ボタンを押した携帯電話は、ロック画面に十一時四十八分を表す数字を並べた。夏休み開始早々半日終わってら、と苦笑する。わたしは携帯電話を開き、白い画面に文字を並べる。「おうちの張り紙を拝見した者です。夏季休暇で時間を持て余しているので、よかったらリバーシの対局で相手になっていただけませんか?」――。もう少しまともな文字の並べ方があろうと思い、一気に文字を消す。そして何度か書き直して、文字を送信した。

 返信は早かった。「もちろんです! 日時の希望はございますか?」

 「特にありません。貴方の都合のいい時にでも」

 「僕はいつでもかまいませんよ。いつもお相手の希望に合わせて決めています。今日でも明日でも、一か月後でも大丈夫です」

 「じゃあ、今日でも?」

 「もちろんです。時間はいつ頃にしましょう?」

 「一時間後とか?」冗談のつもりだった。相手がどう返してくるのかが気になった。ほんの悪戯心、といったものだ。

 「もちろんです。お待ちしております」文末には、穏やかな表情で目を閉じる顔文字が添えられていた。これだけのやりとりだけで判断するとしたら、非常に穏やかで親しみやすい人物となるが、実際にはわからない。それでも、こちらから対局を申し出た以上、わたしはあの家へ向かう。幸い、足の速さにはいささか自信がある。体の軟らかさや瞬発力もまたそうだ。