食後、わたしは食器棚からグラスを取り出し、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して注いだ。それを一気に飲み干し、ペットボトルを冷蔵庫に戻し、扉を閉めて流し台に水栓を捻る。食器用スポンジを泡立て、グラスや皿、箸などを撫でていく。


 私室で淡い茶色のクローゼットを開け、白のポロシャツと黒のスキニーパンツを取り出し、黒のティーシャツに灰色のスウェットという寝巻きからそれに着替えた。

 玄関の引き戸を閉め、鍵を閉める。コロンとでもいうような鈴をぶら下げた鍵を、ポロシャツのポケットに入れ、それについたネックストラップを首にかける。

 いつもは家を出たところを右に曲がるのを、今日は左に曲がった。気まぐれ、というのが理由になるなら、気まぐれだ。

 途中、随分大きな庭木のある家の前を通ることになった。白い外壁に真紅の屋根を被った、和風とも洋風ともつかない平屋だ。煉瓦調のブロック塀には、なにやら紙が貼られている。内容は次のようなものだ。

「ボードゲーム(リバーシ、チェス、将棋、囲碁……)
カードゲーム(トランプ)
お付き合いいただけませんか?」――。

「気が向いた方は気軽にご連絡ください!」の文字には連絡先が続いている。

 なんだこいつ、というのが素直な感想だった。それはこの張り紙を出すこの家の主と思しき人物に対してでありながら、最後に記された連絡先を記憶しようとしてしまった自分自身に対してでもある。