僕は煙草を離して煙を吐いた。「すっかり秋だな」と言う増家へ、「そうだね」と返す。

 「なんかいいことでもあったか?」と、彼は言う。

 「どうだろう」

 「悪いことはなかっただろ」

 「そうだね」思い出したんだと言うと、彼は聞き返した。

 「思い出したと言うより、また新たに知ったと言おうか」

 「ほう。お前に知らないことなんかまだあるんだな」

 「神様でもあるまいし」

 「なにを知ったんだ?」

 大喜利は得意じゃないよと言うと、それなりのかましてんじゃねえかと増家は笑う。

 「僕が見ていた世界は、本当のそれの極一部に過ぎないってこと」

 「ほう。意外と普通なことだな」てっきり悟りでも開いたのかとと言う増家に、君は僕をなんだと思ってるんだと笑い返す。

 「まあ、お前ほどいろんなこと知っちまうと、それが全部なんじゃねえかとか思っちまうだろうなあ」おれにゃ想像もできんがと、増家は煙草を咥える。

 「世界は広いものだね。君みたいな人は数少ないと思ってたけど、そうでもないみたいだった」

 「ほう。それは心配な世界だな」

 「僕は嬉しいよ。君みたいな人は一緒にいて楽しい」

 「それは……悪口?」

 「滅相もない」と僕は手を振る。縁側に置いた灰皿に灰を落とす。「君みたいな楽天的な人は、話す薬みたいだなと」

 「過剰摂取は毒だぜ」

 「せっかくだけど手遅れだよ」

 そりゃあ大変だと笑う増家に笑い、彼と同時に煙を吐いた。ふわりと吹いた風が、二つの煙を混ぜてしまった。