ナオさんはある扉を開くと、わたしを先にその部屋の中に入れた。全方位の壁がディスクの収納として働いた部屋だ。自分も入ると、彼は迷わずに右側の壁を見て、一方のCDを収めた。同じように反対側の壁に残った一方のCDをも収める。

 「これだけたくさんあって、並びとか把握してるんですか?」

 「ある程度はね。でもまあ、戻すのは空いてる場所に入れればいいだけだから」

 ほう、とわたしは間の抜けた頷きを返す。

 「ジャズも好き?」と、ナオさんは壁を眺めて問う。その間、何枚かディスクのケースを抜き取っては手の中に重ねていた。

 「すごい良かったです」と答えると、彼は「了解」と気楽なように言って、次々と手の中にディスクのケースを重ねていく。かちゃかちゃとケースが当たっていくうち、ナオさんは、「これはあくまで僕の個人的なおすすめだからね」と、なにかを危惧したように苦笑した。

 結局、一度聴いてからの方が間違いないと、大きな紙袋の中にCDケースは重ねられた。

 ナオさんは縁側へ戻ると、「なにか飲む?」と問うてきた。せっかくならばもう一杯なにか飲みつつ、植物や音楽、あるいはまりについて聞きたいところだったが、空は橙に焼けていた。

 「いえ」と、わたしはかぶりを振った。「今日はこのあたりで」またお願いしますとお辞儀すると、ナオさんはいつでもと、先ほどのおいでのように言った。