高校卒業後。兄は洗面台の前に立った。髪の毛は高校を卒業してすぐに、明るい金に染めた。見ようによっては白にも見えるほどの明るさだ。彼は人差し指の腹に載せたコンタクトレンズを左目に着けた。
兄はエリの言葉を思い出した。卒業式直前の、ある日のものだ。「わたし、英語大嫌いなの。全然わかんない。他の教科では人並み近い点を取れるんだけど、英語だけはどうもだめ。これはわたしのコンプレックス。岸根君にもあるんじゃない? でもね、それを嫌っちゃだめよ。コンプレックスは、無限の可能性の種なんだから。美しすぎる植物部員の岸根君も知らない、未知の植物の種よ」――。最後に、「さあスマイル」と彼女は笑った。「わたし、岸根君の笑顔大好き」と言った彼女の笑みは、幼い少女のような、汚れも陰りもない、眩いものだった。
兄はエリの言葉を思い出した。卒業式直前の、ある日のものだ。「わたし、英語大嫌いなの。全然わかんない。他の教科では人並み近い点を取れるんだけど、英語だけはどうもだめ。これはわたしのコンプレックス。岸根君にもあるんじゃない? でもね、それを嫌っちゃだめよ。コンプレックスは、無限の可能性の種なんだから。美しすぎる植物部員の岸根君も知らない、未知の植物の種よ」――。最後に、「さあスマイル」と彼女は笑った。「わたし、岸根君の笑顔大好き」と言った彼女の笑みは、幼い少女のような、汚れも陰りもない、眩いものだった。