中野楓はペンケースとカーディガンを一点ずつ買っていった。手芸部の女子は、好奇心に満ちたにやりと口角を上げた顔で、兄の顔を覗き込んだ。

 「岸根君、さっきの子に一目惚れした?」

 「……なんで」

 「だってえ、すっごい見てたよ? 岸根君、ああいう感じの子が好きなんだあ。おめめぱっちりしちゃって? かわいいだけじゃなくどこかに綺麗さの窺える感じの? ふうん……」そうかそうか、と彼女は一人頷く。

 「そんな気は一切ないよ」

 「ええ? そんなドライ君気取っちゃってえ。表情は素直だぞ? 僕はあの子が好きですうーって顔してるもん」

 「好きというか……。ただ、素敵な人だなと」

 「それを惚れたと言わずしてなんと言うだ? いいじゃん、別に言いふらしたりしないよ。芸能人の熱愛報道の方がうんと興味深いもん。今やってるドラマの中でいがみ合ってる二人とかね。あのお二方はそろそろゴールインさ」

 「あちこちの情報番組で言ってるね。双方が幸せなら何よりだ」

 「あら、岸根君も芸能ニュースとか興味あるの?」

 「興味はないけど」

 「ふうん。まあ、あれだけ騒がれていちゃあ、特別に注目してなくても耳に入るか」いやああの二人の発展が楽しみだと、彼女は楽しげに言う。