「――で、その人はおとなしくその拾った携帯を交番に持って行ったんだって」

 「へええ」

 エリはふふっと笑う。「岸根君、笑うようになったね」

 それは高校三年生の梅雨のことだった。雨が続く中、珍しく晴れた日のことだった。

 「少し前から。いいスマイルよ」

 「……そう?」

 「うん、とっても素敵。女の子、みんな惚れ惚れしちゃう。これだもん、美しすぎる植物部員なんて冠も貰っちゃうわよ」

 「なにが美しいんだか……」

 「そんな謙遜しないでいいじゃない。岸根君、かっこいいもん。わたしはね、やっぱりその目が好き。茶色いの」

 「……変わってるでしょ」

 「まあ、多くは見ないよね。でも綺麗。生まれ持ったものでしょう?」

 「……うん」

 「じゃあ自信持ちなさいよ。そんな茶色のエンスタタイトみたいな目してる人、滅多にいたもんじゃないよ」

 「髪も眉も睫毛も黒いのに」

 「いいじゃない。黒猫とか白猫が黄色や青の目を持ってても綺麗でしょう?」

 「僕は人間だし」

 「それはわかってるわよ。とにかく、綺麗だからいいのっ」わかった、と問うてくるエリの右耳には、その日も薄緑色の石が光っていた。