翌日予定のなかった弟は、テレビ画面にずらりと並んだ文字を眺めていた。ドラマの題名が多く並んでいる。うち一つを選び、内容を再生した。それなりに視聴率をとっているらしいドラマだ。双子の兄弟が出てくる話で、二人はなにゆえか、互いの思考が読める――というより感じられる――というのだ。これは、そんな二人ならではの幸と不幸を中心に描いたヒューマンドラマである。
ドラマを観終え、しばらく昼の情報番組を眺めていると、兄がリビングへ入ってきた。
「おはよう」と声を掛けると、「おはよう」と静かに返ってきた。ちらと見た兄の目は、少し眠気の残っているように見えた。
「体調悪いの?」と問うと、彼は「ううん」と、静かにかぶりを振った。チェアを引いて腰掛け、パソコンを起動する。
「昨日、図書館行ったんだよね」兄がキーを叩く軽快な音を聞きながら、弟は言った。
「うん」と言う兄へ、彼は「なに借りてきたの?」と問う。
マウスのホイールを回す音が、一定の速度を刻む。
「いろいろ」
「ふうん。文芸書はある?」
「いくつか」
「読んでもいい?」
ホイールの音がぱたりとやんだ。「新鮮味はないと思うよ」と、兄はぽつりと声を返す。
「新鮮味? まあ、ちょっと覗いてくるよ」弟はよっこいしょとダイニングチェアから腰を上げ、リビングを出た。
兄の部屋には、久しぶりに入った。常に一緒におり、わざわざ相手の部屋へ出向く必要がなかったのだ。また、過去に部屋に入った理由も同じだ。話が弾む中、両親に早く寝なさいと言われて、兄の部屋で話を続けたのだ。弟が話し疲れて眠った日には、兄は敷布団を半分弱使って眠った。弟が目を覚ましたとき、兄はなにも掛けておらず、そのことを指摘されると、彼は怜央が全部持っていったと口を尖らせた。
久しぶりに入った兄の部屋には違和感を感じ、その正体にはすぐに気づいた。布団が敷かれたままなのだ。兄は弟よりも、一度決めたことや習慣は一貫して続けるタイプであり、布団は毎日綺麗に畳む。その割に、部屋の扉は日によって開けたままだったり閉めてあったりするが、弟は兄のそんな部分に親近感のようなものを感じていた。尤も、実の兄弟なのだから親近感もなにもないのだが。
兄ちゃんが布団を敷きっぱなしにするなんて珍しいなと思いながら、弟は袋の前に重ねられた書籍を一つずつ見ていった。文芸書は五冊あり、いずれも弟の知らない題名が刻まれていた。著者の名も、五冊のうち二冊には知らないものが入っている。同じような生活をしていながらいつの間にこんな人を知ったのだろうと弟は思った。
その知らない作者の名を抱えた二冊を手に兄の部屋を出、リビングに戻った。兄は変わらず、キーを叩いてはマウスのホイールを回していた。弟はその背を見て、どうしたのだろうと改めて思った。
ドラマを観終え、しばらく昼の情報番組を眺めていると、兄がリビングへ入ってきた。
「おはよう」と声を掛けると、「おはよう」と静かに返ってきた。ちらと見た兄の目は、少し眠気の残っているように見えた。
「体調悪いの?」と問うと、彼は「ううん」と、静かにかぶりを振った。チェアを引いて腰掛け、パソコンを起動する。
「昨日、図書館行ったんだよね」兄がキーを叩く軽快な音を聞きながら、弟は言った。
「うん」と言う兄へ、彼は「なに借りてきたの?」と問う。
マウスのホイールを回す音が、一定の速度を刻む。
「いろいろ」
「ふうん。文芸書はある?」
「いくつか」
「読んでもいい?」
ホイールの音がぱたりとやんだ。「新鮮味はないと思うよ」と、兄はぽつりと声を返す。
「新鮮味? まあ、ちょっと覗いてくるよ」弟はよっこいしょとダイニングチェアから腰を上げ、リビングを出た。
兄の部屋には、久しぶりに入った。常に一緒におり、わざわざ相手の部屋へ出向く必要がなかったのだ。また、過去に部屋に入った理由も同じだ。話が弾む中、両親に早く寝なさいと言われて、兄の部屋で話を続けたのだ。弟が話し疲れて眠った日には、兄は敷布団を半分弱使って眠った。弟が目を覚ましたとき、兄はなにも掛けておらず、そのことを指摘されると、彼は怜央が全部持っていったと口を尖らせた。
久しぶりに入った兄の部屋には違和感を感じ、その正体にはすぐに気づいた。布団が敷かれたままなのだ。兄は弟よりも、一度決めたことや習慣は一貫して続けるタイプであり、布団は毎日綺麗に畳む。その割に、部屋の扉は日によって開けたままだったり閉めてあったりするが、弟は兄のそんな部分に親近感のようなものを感じていた。尤も、実の兄弟なのだから親近感もなにもないのだが。
兄ちゃんが布団を敷きっぱなしにするなんて珍しいなと思いながら、弟は袋の前に重ねられた書籍を一つずつ見ていった。文芸書は五冊あり、いずれも弟の知らない題名が刻まれていた。著者の名も、五冊のうち二冊には知らないものが入っている。同じような生活をしていながらいつの間にこんな人を知ったのだろうと弟は思った。
その知らない作者の名を抱えた二冊を手に兄の部屋を出、リビングに戻った。兄は変わらず、キーを叩いてはマウスのホイールを回していた。弟はその背を見て、どうしたのだろうと改めて思った。