弟は長く息をつきながら後ろに倒れた。やっと終わった、と腹の中に繰り返す。こんな疲れることをしてなんになるというのだろうか。パソコンからは、まだ優しいせせらぎの音が聞こえている。三時間半くらいの長い動画だった。それが終わるまでにほとんど手を付けていない宿題を終わらせたのだから、それなりに優秀だろうと、弟は心中、自画自賛だ。


 兄がどこへ行っていたのかは、二本目の作業用動画が終わる頃、リビングの時計が六時四十分をさした頃にわかった。玄関の開く音に、弟はリビングを出、そちらへ向かった。兄は大きく膨らんだ袋を持っていた。図書館のものだ。

 「おかえり」と言うと、兄は「ただいま」と静かに声を返した。様子は昨日とさして変わらない。なにがあったのだろうかと気になっては問いたくなるが、返ってくる答えは大方想像がついている。

 「昼、なにか食べた?」

 「食べた」兄は靴を脱ぎながら答える。

 弟が「そう」と返すと、兄はさっさと廊下に上がり、大股で洗面所へ向かう。手洗いをそこそこに済ませると、彼はとんとんと、階段に素早い足音を鳴らした。後に、二階の部屋の扉が開閉する音が続いた。