兄弟の家の近所に、市立図書館があった。兄は調べ物の合間に、その営業時間を調べた。九時から十九時までの営業だった。パソコンの画面右下の時計は、五時四十八分を表す数字が並んでいる。図書館の開館まではしばらく時間がある。その間、思いつく限りの物事と、それに関連する物事の情報を集めようと考えた。娯楽、流行、学問、政治、経済、芸能――分野は問わない。知ることができればなんでも構わないと思った。
ふっと開いた扉に驚かされたのは、六時を少し過ぎた頃のことだった。母が起きてきたのだ。振り返った先で、母は「なにしてるの」と笑った。「びっくりしたなあ」と言ってキッチンに入ると、サーバーからグラスへ水を注ぎ、ゆっくり飲み干した。ふうと息をついてグラスを洗い、かごへ置いた。なにか軽いものが作業台に置かれる音がする。弁当箱だろう。高くついちゃうからねと、彼女は極力、昼食を自分で作った弁当で済ませている。
「調べもの?」と言う母へ、「まあ」と兄は返す。「いつからやってるのよ」と笑う母へ、彼は「少し前だよ」と返す。
「今日も友達の家行くの?」
「いや、その予定はないよ」
「そう。いやね、今日もすごい暑いみたいだから、気を付けてねって言いたかったの。ああ、家の中でも気をつけなきゃだめよ? 部屋で熱中症とか、聞くから。暑さは感じるから大丈夫だろうけど、ちゃんと水分摂るんだよ」
「うん、ありがとう」
「お昼はなにか適当に食べてね。お金もまだあるね?」
「大丈夫。ご飯炊くつもりでいるし」
「よし」
母は冷蔵庫の扉を開くと、「あら」と声を漏らした。「梅干しがない。これは残念ねえ」ごまとお塩だけかけて行くかしらと独り言を並べて、彼女は扉を閉める。
ふっと開いた扉に驚かされたのは、六時を少し過ぎた頃のことだった。母が起きてきたのだ。振り返った先で、母は「なにしてるの」と笑った。「びっくりしたなあ」と言ってキッチンに入ると、サーバーからグラスへ水を注ぎ、ゆっくり飲み干した。ふうと息をついてグラスを洗い、かごへ置いた。なにか軽いものが作業台に置かれる音がする。弁当箱だろう。高くついちゃうからねと、彼女は極力、昼食を自分で作った弁当で済ませている。
「調べもの?」と言う母へ、「まあ」と兄は返す。「いつからやってるのよ」と笑う母へ、彼は「少し前だよ」と返す。
「今日も友達の家行くの?」
「いや、その予定はないよ」
「そう。いやね、今日もすごい暑いみたいだから、気を付けてねって言いたかったの。ああ、家の中でも気をつけなきゃだめよ? 部屋で熱中症とか、聞くから。暑さは感じるから大丈夫だろうけど、ちゃんと水分摂るんだよ」
「うん、ありがとう」
「お昼はなにか適当に食べてね。お金もまだあるね?」
「大丈夫。ご飯炊くつもりでいるし」
「よし」
母は冷蔵庫の扉を開くと、「あら」と声を漏らした。「梅干しがない。これは残念ねえ」ごまとお塩だけかけて行くかしらと独り言を並べて、彼女は扉を閉める。