瞼を開くと、まだ部屋の中は明るくなりきっていなかった。壁の時計は五時半を少し過ぎた頃を示している。兄は僅かに眠気の残るような、布団を求めるような体を起こし、布団を畳んで私室を出た。隣の弟の部屋には、まだ人の気配を感じた。
リビングに入ると、まだ両親も起きておらず、そこは空箱のようだった。兄は椅子を引いて腰を下ろし、パソコンを起動させる。慣れた手つきでパスワードを入力し、検索エンジンを開いて思考する。なにか知りたいことはないか。なにか知らないことはないか。意外と知らないことは多いのかもしれない。今まではそれで不自由はなかったが、このままいればいつか不自由が生じるかもしれない。
“不確か”のすべてを疑え。ミステリーかサスペンスかのドラマで、登場人物が言っていた言葉だ。兄は自問する。僕はなにを知っている。兄はその問いに答える、わからない。まさに“不確か”だ。なにをどれだけ知っているか、一つ漏らさず思い起こせはしない。では、と兄は思った。僕はなにも知らないのではないか。その知らないすべてを、知る機会が訪れたのではないか。
知らなくてはならない。兄はキーを叩いた。検索欄に並ぶ文字は、今まで知っているつもりでいたものの名前だ。一言にそうはいっても、それがいつどこで生まれたのか、いかなる歴史を辿って今日に存在しているのか。まるで知らなかった。知らなくてはならない、知識を増やさなくてはならない、皆に並ばなくてはならない。いつか孤立してしまうかもしれないと、恐ろしくてたまらなかった。
リビングに入ると、まだ両親も起きておらず、そこは空箱のようだった。兄は椅子を引いて腰を下ろし、パソコンを起動させる。慣れた手つきでパスワードを入力し、検索エンジンを開いて思考する。なにか知りたいことはないか。なにか知らないことはないか。意外と知らないことは多いのかもしれない。今まではそれで不自由はなかったが、このままいればいつか不自由が生じるかもしれない。
“不確か”のすべてを疑え。ミステリーかサスペンスかのドラマで、登場人物が言っていた言葉だ。兄は自問する。僕はなにを知っている。兄はその問いに答える、わからない。まさに“不確か”だ。なにをどれだけ知っているか、一つ漏らさず思い起こせはしない。では、と兄は思った。僕はなにも知らないのではないか。その知らないすべてを、知る機会が訪れたのではないか。
知らなくてはならない。兄はキーを叩いた。検索欄に並ぶ文字は、今まで知っているつもりでいたものの名前だ。一言にそうはいっても、それがいつどこで生まれたのか、いかなる歴史を辿って今日に存在しているのか。まるで知らなかった。知らなくてはならない、知識を増やさなくてはならない、皆に並ばなくてはならない。いつか孤立してしまうかもしれないと、恐ろしくてたまらなかった。