友人が「敵を討つ」ため、何度も同じコースをプレイするうちに、兄はその時間に現実味を忘れていった。何度目かに画面が「2nd」の文字を表示すると、一気に現実に引き戻された。どうしよう、と思った。「2」という数字が網膜にこびりつく。一番じゃない、誰かに越された、誰かに負けた――。その事実が、抱えきれぬほど大きく、冷たく感じた。普段ならば、一番誰、などと友人皆の画面を覗き込み、嘘でしょー、などと言っては笑っていたはずなのだが、今回ばかりはそれができなかった。ここにいる誰かに負けたのだ、ここにいる誰かよりだめなのだ、知識以外でも――だめなのだ――。兄は唇を噛んだ。必死だった。そうでもしなければ、感情の塊が弱音や涙となって溢れてしまいそうだったのだ。

 「どうした?」とカーキが言う。「なんだ、腹でも痛いのか?」と顔を覗き込む友人に対し、彼は「お前はちと黙っとけ」と、ぴしゃりと声を放つ。彼らに対して、「なんでもない」と返した声は、震えるでも掠れるでもなく、ただ、愛想の欠片もないものだった。

 「よし、そんじゃあコンビニ行こうぜ。おれ腹減った」とカーキは言う。「ええ、おれの敵討ちはどうするんだよ」と、友人は不満げに声を返す。「知らねえよ」とカーキは言って、「おれは腹が減ってる。これじゃあファーじゃねえだろ」と続けた。友人が「ファーってなんだ?」と言うと、もう一方の友人が「それを言うならフェアじゃね?」と、カーキへ冷静に返す。「フェアってなんだ?」と言う友人へ、彼は「平等とかじゃなかったか? ファーはもこもこのやつだな」と答える。