彼は、生まれた瞬間より変わっていた。一卵性の双子で、身も心もよく似た弟もあったが、其方よりも変わっていた。生後間もなく、兄弟は目を開いた。くりっとした大きな目だった。その虹彩は、弟の方は黒く、兄の方は茶色だった。弟は怜央、兄は奈央と名付けられ、ともに健康に育った。虹彩の色は違ったが、体毛の色は同じ黒だった。
兄弟は幼稚園へ入園すると、旺盛な好奇心と明るい性格ですぐにその場へ馴染み、友達も作った。類は友を呼ぶとでも言おうか、兄弟にはそれぞれ、似た性格の友達ができた。当時兄弟同士の性格も似ていたが、不思議と、その二つの大きな輪が一つになることはなかった。
兄弟は生まれてからそれまで、経験から学んだ。知識に対して受け身の体勢をとっていたのだ。それでなんの問題も不自由もなかった。充分な、平穏な生活を送ることができていた。
幼稚園の頃、友達と呼ぶ仲になる人が、似てはいても同じ人間ではなかったからか、その頃より兄弟は少しずつ似ている部分を減らした。小学生にもなると、その違いはより明確なものになっていった。兄が弟を避けるように、脇にあった扉を開け、その先へ進んでいったのは、小学校四年生の頃だった。きっかけは至極平凡な、いかにも小学生同士らしい会話だった。
季節は夏だっただろうか、それはある休日のことだった。自宅の玄関で、兄は靴を履いている弟へ声をかける。兄は黒地に白の「N」のワッペンがついたショルダーバッグを、弟は灰地に黒の「R」のワッペンがついたショルダーバッグを下げている。
「怜央、早くして。……なんで一緒に行かなきゃいけないの」
「いいじゃん」と弟は口を尖らせる。「ナッツの家とカーキの家、近いんだもん」
「だからって一緒に行く必要はないじゃん」
「兄ちゃんは冷たいなあ。いいじゃん、おれが一緒に行きたいの」
「それなら早くしてよ」と兄が息をつくと、弟は「よしオッケー」と満足げに声を発し、「よっ」と立ち上がる。
兄弟は幼稚園へ入園すると、旺盛な好奇心と明るい性格ですぐにその場へ馴染み、友達も作った。類は友を呼ぶとでも言おうか、兄弟にはそれぞれ、似た性格の友達ができた。当時兄弟同士の性格も似ていたが、不思議と、その二つの大きな輪が一つになることはなかった。
兄弟は生まれてからそれまで、経験から学んだ。知識に対して受け身の体勢をとっていたのだ。それでなんの問題も不自由もなかった。充分な、平穏な生活を送ることができていた。
幼稚園の頃、友達と呼ぶ仲になる人が、似てはいても同じ人間ではなかったからか、その頃より兄弟は少しずつ似ている部分を減らした。小学生にもなると、その違いはより明確なものになっていった。兄が弟を避けるように、脇にあった扉を開け、その先へ進んでいったのは、小学校四年生の頃だった。きっかけは至極平凡な、いかにも小学生同士らしい会話だった。
季節は夏だっただろうか、それはある休日のことだった。自宅の玄関で、兄は靴を履いている弟へ声をかける。兄は黒地に白の「N」のワッペンがついたショルダーバッグを、弟は灰地に黒の「R」のワッペンがついたショルダーバッグを下げている。
「怜央、早くして。……なんで一緒に行かなきゃいけないの」
「いいじゃん」と弟は口を尖らせる。「ナッツの家とカーキの家、近いんだもん」
「だからって一緒に行く必要はないじゃん」
「兄ちゃんは冷たいなあ。いいじゃん、おれが一緒に行きたいの」
「それなら早くしてよ」と兄が息をつくと、弟は「よしオッケー」と満足げに声を発し、「よっ」と立ち上がる。