がこん、と、取り出し口の中に重みのある缶が落ちる。紺色のダウンコートを着た手がそれを包む。男は熱い熱いと手の中で缶を弾ませ、意を決したように缶を掴んでこちらに差し出した。「ごちそうさまです」と僕はそれを受け取る。

 「おしることか売れてねえんじゃねえの? すげえ熱い」

 「……そうなのかな」

 「ていうか、おれもうずっと負け倒してるんだけど。お前にいくらつぎ込んだかわかんねえ。四年分はおしるこ買ったわ」

 「……二年に一杯しか飲まないの?」

 「そんなにも飲むかわかんねえくらいだ」

 「そう……」

 僕は適当に缶を振って、タブを起こして倒した。中身をすすると、小豆の粒とともに優しい甘さが流れてきた。

 「にしても」と男はため息交じりに言う。

 「お前まじで最強だな」という彼の苦笑が、背に嫌なもの走らせる。僕は右手の中の温もりを握りしめた。

 違う。僕は最強などではない。むしろ、それとは遥かな距離を置いているのだ。