そして今日も、図書館に入り浸りながら、先輩のことをわざと考えないようにするために、本の虫となっている。
 文字を追っているときだけは、何も考えなくて済むから……。
 そういえば、瀬名先輩と放課後遊ぶようになってから、読書時間が極端に減っていた。
 こんなに一気に本を読むことができるのは、いつぶりだろうか。
 なんて、また瀬名先輩のことを思い出してしまった自分の頬を軽くたたいて、私は再び本に集中した。
 周りは勉強している受験生だらけだから、私もさすがに本を読むのは三十分と決めて、あとは参考書を開く時間に当てている。
 目指す目標も立てないまま勉強している私は、どこに流されていくんだろうかと、漠然とした不安が押し寄せる日々だ。
 自分が、興味のある勉強って、いったいなんだろう。
 どの教科もこれといって得意なものはない代わりに、これといって苦手なものもない。
 どこまでもパッとしない自分の能力には辟易する。
 私は一度読んでいた本を閉じて、額を机にくっつけて目を閉じた。
 目を閉じると、すぐに浮かんでくるのは瀬名先輩の姿で。
 考えるだけでじわりと涙が浮かびそうになってしまう。
 ……今、自分にできることは、なんだろう。
 毎日泣いているだけの日々を、もうそろそろ乗り越えたいよ。
 だって、こんなに毎日悲劇のヒロインみたいに泣いていたら、まるで瀬名先輩が悪者みたいじゃないか。
 今は方法が分からないけれど、前に進んでいれば、いつか、私と瀬名先輩の間に何かが起こるかもしれない。
 そんな奇跡を、信じてもいいだろうか。
 ねぇ、瀬名先輩。
 また、あのときみたいに、ぶっきらぼうだけど本当は優しい言葉で、私のことを叱ってよ。
 私、強くなって、もう一度瀬名先輩との関係を築きたい。
 そうなるためには、今、目の前にあることに向き合うしかないんだ。
 そう言い聞かせて、私は参考書を開いた。
 見えないゴール。どんなに走っても、その先に、瀬名先輩はいないかもしれない。
 でも、歩みを止めたままじゃ、きっとどこにも行けない。



 夏休みが明けて、受験ムードもいよいよ本格的なものになってきた。
 ピリついた空気を肌に感じながら、引き続き担任になった小山先生も、いつにもまして授業で真剣な様子だ。