本当に予想外だったから、俺は初めて咲良に動揺した姿を見せてしまった。

「私……ずっと前から、直哉のことが好きだったの」

 真っ赤な顔をして告げられたその一言は、俺の後頭部に金属バットでフルスイングしたような衝撃を与えた。ただ目を見開くだけで言葉を発することができない脳震盪状態の俺に、咲良は続けた。

「直哉に可愛いって思って貰えるように努力して、カナたんよりも私の方が良いかもって意識してくれるようになったら告白しようって……そう、思ってた。でも、あんたはずっとカナたんに夢中で、私が入る隙なんて微塵もなかった。ようやく諦めがついたわ。私も受験あるし、気持ちに整理をつけたかったの。ごめんね、一方的にスッキリさせて貰っちゃった」

 開き直って饒舌になる咲良に対して、俺は声を出すことすら難しかった。なんとか声を絞り出して、一番の疑問を口にした。

「……で、でも……俺のどこが好きなの?」

「どこって言われても……もうよくわかんないのよね。駅前でティッシュ配ってる人の前を何回も通る図々しさも、紙パックのジュースのストローをガシガシ噛んじゃう子どもっぽいところですら好きなんだもん。もう一種の病気だと思う」

 咲良は自嘲気味に笑った。

「でも一番を挙げるなら……心が好き。素直で、自分が信じたことをとことん突き通すところが、大好き。……未練たらしい女で申し訳ないんだけど、もしも直哉の気持ちが一ミリでも私にあるなら、私と付き合って欲しいの。絶対に損はさせないわ」

 俺は赤くなっていると自覚している顔を隠して、蔑むように言ってやった。

「咲良……お前本当に、男を見る目ないよ……」

「良いのよ。私が良いと思えれば、それで」

 こいつ、馬鹿なツンデレ女のくせに決めるところは決めてきやがった。これじゃあオロオロしている俺が、なんだかすごく滑稽じゃないか。

 俺は立ち上がり、くるっと方向転換してから全速力で逃げ出してしまった。