「暑いな」

 容赦なく降り注ぐ日差しが肌を焦がす。前方遥か遠くを見ればゆらゆらと道路が揺れて見える。

「そうだねー」

 ふと横を歩く冬木の顔を見ると心ここにあらずと言った感じだった。なにやら塀の向こう側を必死に観察しているようだ。

 冬木のことだから珍しい昆虫でも探しているのかと思いつつも特に気にせず歩き続けていると、やがて冬木はぴたりと足を止めた。

「冬木?」
「確か、ここらへんだったかな……うん、ここだ……」

 ぼそぼそと隣で何かを呟いている。聞き取れはしたもののその言葉の意味はさっぱりだった。冬木はまるで睨むかのように山を見つめている。

「どうした……? 暑さで頭でもおかしくなったか?」

 あまりにも様子がおかしいと思い肩を叩くと、冬木ははっとなってこちらに向き直ってきた。

「え? あ、ごめんごめん。私の頭がおかしいのはいつものことだよ!」
「そうか、ならいいけど」

 というか、頭がおかしいのは自覚していたんだな。

「さ、確認したいものは確認できたし、行こっか」

 そう言って冬木は再び歩き始めた。
 変な奴だな、と思いつつ俺もすぐに足を並べる。

「……ん?」

 その瞬間、言いようのない奇妙な感覚が胸のうちに沸き起こってきた。