「帰っていいか?」

 言いながら踵を返そうとしたら物凄い勢いで泣きつかれた。

「待って! テニスができるのは本当だから!」
「嘘つけ! ラケットもシューズも持ってない奴ができるわけないだろ!」

 テニスはそんなに甘いスポーツではない。
 初心者はまずサーブ時に指定された範囲内にボールを飛ばすことさえ困難だ。力加減を間違えて場外ホームランを連発することもしばしば。

 ラケットもシューズも持っていないということはテニス経験がないことと同義。まともな試合などできるわけがないのだ。

 よし、今日は強引にでも帰るとしよう。
 人目も憚らず縋りついてくる冬木を振りほどくと、冬木は最終手段と言わんばかりにある提案をしてきた。

「誠くんが勝ったら空気入れ買ってあげるから!」

 その言葉に俺の足がぴたりと止まった。
 よし、今日は冬木とテニスをするとしよう。

「早く行くぞ。おすすめのシューズとラケットを選んでやる」
「誠くんちょろい……」
「うるさい」