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 待ち合わせ場所に着くと学校のジャージを着た冬木が両手を振って存在をアピールしてきた。朱色のジャージはよく目立つから見つけやすい。

「待たせた」
「くくく、ノコノコやってくるとは! 私に挑んだことを後悔させてやろう!」

 いや、お前が誘ってきたんだろ。というツッコミはしない。
 いかにも突っ込んで欲しそうな口ぶりだったのであえて心の中だけに留めておくと、案の定冬木は「あの、何か言ってほしい……」と恥ずかしげに眉を下げてきた。

 その反応の可愛らしさに笑いが出そうになるが、ふととあることに気付いた俺の顔はすぐに引き締まった。

「ところでお前、ラケットは?」

 ジャージ姿の冬木は学校の鞄を肩にかけているだけでラケットらしき物は持っていない様子だった。

「今から買う」
「え」

 絶句した。
 遅れて、ああ、そういうことねと理解が及ぶ。

 この時点で俺はオチが読めてしまった。
 よく見たらテニスシューズすら履いていない。ただの運動靴だ。

 テニスコートというのは基本テニスシューズしか許されない。専用の靴でなければコートが痛むのだ。大抵の施設にはそういった注意書きがされている。テニスをやる人間にとっては常識だ。

「テニシュは?」
「それも今から……」

 ため息が出た。
 こいつ、テニスやったことないな。