冬木にお礼をするというのなら好都合のイベントだ。
 しかし、ううむ、どうしたものか。

 夏休みは貴重だ。秋の県大会は夏休みの努力がもろに反映されると言っても過言ではない。通常の部活動はもちろんのこと、うちの部では八月初頭に一週間の合宿を行うそうだ。

 我が校の敷地内には授業では使われていない旧校舎があり、改修の末宿泊可能な設備となったのだとか。

 徒歩十分で登校できる身としてはわざわざ学校で寝泊まりする必要性を感じないのだが、なんにせよ普段より密度の高い練習ができるのはありがたい。

 今年の休みはこうした予定でびっしり埋まっている。その大切な期間の最終日を遊びに費やすのは俺としては頷けない。

 しかし俺が頷けないことに冬木が頷くはずがないのもまた事実。あの手この手を使って目的を達成しようとするだろう。最悪の場合夏休みの練習そのものを台無しにされかねない。

「行こうよ!」

 隣では既に行く気満々の冬木とみなみが浴衣をどうするだとか、待ち合わせはどこにするとか、そういった会話で盛り上がっていた。後は俺の返答次第、といった感じだ。

「よし、わかった。行こう」
「ほんと!? やった!」

 承諾すると冬木は心底嬉しそうな反応を示す。そんな冬木に対し、俺は「ただし」と念を押した。