「じゃあ冬木は一体どうやって俺の番号を入手したんだ?」
「うーん、考えられるのは部活中にこっそり誠の鞄からスマホを取り出して番号を見たとかかな」
「パスワードかけてるぞ」
「いつも千歳ちゃんの目の前でスマホ開いてるでしょ? パスワードを入力しているところなんて見放題だよ」

 ああ、それならばあり得る。確かにあいつの眼前でパスワードを入力した回数は数えきれない。覚えようとして見れば確実に覚えられるくらいには頻繁に打ち込んでいることは確かだ。

「じゃあみなみが教えたわけじゃないんだな」
「うん」
「わかった、疑って悪かったな」

 みなみが勝手に番号を教えた可能性と、冬木が盗み見た可能性、どちらの方が高いかと言えば当然後者だ。あいつならやりかねない。

「まあ、あれだな、俺が言うのもなんだが、別にどうでもいいことだな」
「そうだね、なんといったってあの千歳ちゃんだしね」
「うむ」

 そう、相手が冬木なら仕方がない。突然あいつが家の中に出現しても多分俺は驚かないだろう。そのくらい冬木千歳という女は意味不明な存在なのだ。電話番号の件は天災に遭ったとでも思って諦めよう、いざとなれば番号を変えれば済むだけの話だ。

 今優先すべきは冬木のことよりも梅雨をどう乗り切るかだ。
 十月の県大会まで残り四か月。もうあまり時間が残されているとは言えない。

「はあ、そろそろまともに練習してえよ……」

 呟いたそのひと言はあっけなく雨に打ち消されていった。