冬木は全体に向けて「よろしくお願いします!」と言い放つとどこか勝ち誇ったような顔で席に腰を落とした。

 ……よろしくされたくねえ。

 見た感じ悪い奴ではなさそうだ。が、できれば関わり合いは避けておきたい。
 もちろん冬木に限った話ではない。俺はここにいる誰とも深く付き合っていくつもりはないのだから。

 話しかけられれば返事はするし、ひと言ふた言ならば会話だってこなそう。だが、そこから先はない。それがこの学校に入学するにあたって俺が自分自身に定めたルール。いわば線引きのようなもの。

 そういう意味で、この冬木という子はそこはかとなく恐ろしい。こちらの都合など知らん顔して絡んできそうなオーラがある。
 幸い今日はホームルームさえ終わればすぐにでも帰宅できる。

 どうか、どうか何事も起こらないでくれ。
 ――などという俺の願いはホームルームが終わって一秒で砕け散った。

「ねえ、財前くん!」

 一瞬で話しかけられた。頻繁に見てくるし薄々そんな気はしていたが。
 何の用事だろう、今朝の一件についてだろうか。そもそも他に話しかけられるような心当たりはない。