しばらく棒立ちしていると「行ってきます」の声とともに隣家の玄関が開いた。出てきた人物は女の子らしい水色の傘を勢いよく開くと小走りでこちらへ駆け寄ってくる。

「ごめん誠、ちょっと遅れた」
「問題ない」

 みなみが横に並ぶとすぐに足を動かし始める。
 いつもならみなみを置いてさっさと登校していたところだが、今日は違う。ひとつだけ咎めておく必要があるからだ。

「お前、冬木に俺の電話番号とメアド教えただろ」

 早速話を切り出した。
 見覚えのない番号からの着信、そしてハートマークのついたふざけた内容のメール。どれも動かぬ証拠として俺のスマホに残っている。

 幸いにも冬木は想像していた程頻繁には連絡してこなかったから被害は無いが、それでも第三者に個人情報を流出させたという罪は重い。

「え、私教えてないよ」

 隣を歩くみなみが「何のこと?」といった顔を見せる。

「いや、みなみ以外に俺の番号知ってる奴いないし」
「いくら千歳ちゃんが相手とはいえ、私が本人の了承もなくアドレスを教えたりすると思う?」
「……む」

 そう言われればそうだ。真面目でルールやマナーに厳しいみなみがそんなことをするとは考えにくい。俺が食事中にスマホを触るだけで怒るような女なのだから。

 だがみなみは俺に友達を作らせたがっているようだし、可能性はゼロとも言い切れないだろう。