――六月五日(金)

 昨日に引き続き雨が降りしきっている。
 玄関先で空を仰ぎ、曇天を確認すると重い溜め息が出てきた。足元に視線を落とせば雨粒が水たまりに幾重もの波紋を広げている。

 洒落っ気のひとつもない黒い傘を広げると頭上から傘を打つ雨音が聞こえてくる。

「今日もテニスはできそうにないな」

 何の気なしに呟いた独り言はすぐさま雨音にかき消された。
 まあ、昨日の時点でわかっていたことだ。冬木を送り届けて帰宅する頃にはまた降り始めていたし、仮に降っていなくもテニスコートは濡れたままだったろう。どのみち練習などできはしない。

 傘を差したまま家の前で立ち尽くすと、いつかの光景が脳裏をよぎった。

「そういえば、今日はあの猫いないな」

 周りを見渡し、白猫の姿がいないことを認めるとほっと胸をなでおろした。正直、家を出るとき少し警戒していたのだ。またいたらどうしよう、と。

 神出鬼没という言葉が相応しいあの白猫はどうも心臓に悪い。
 あの猫を最初に見たのがここだったせいでついそんなことを考えてしまう。

 昨日も目撃したし、冬木同様、俺のストーカーなのではと思えてくる。