見れば見るほど、以前見かけた猫と似通っている。しかし俺の家とここではひと駅ほど離れている。決して歩けなくはない距離だが、別人、もとい別猫ではないだろうか。

 しかし、いいや、間違いない。これは完全にあの白猫だ。

 ……なんか不気味だな。

 訝しんでいると、ポケットのスマホが音を立てた。猫との睨み合いに気を集中していたせいか、思わずびくっと肩が震えてしまう。

 スマホを見ると『千歳です。今日はありがとう♡』とメールが届いていた。
 おかしいな、冬木にメールアドレスを教えた覚えはないのだが。

 電話番号の件といい、どうやら何者かが俺の個人情報を流出させているようだ。といっても、俺と冬木の共通の知り合いなどひとりしかいないが。

 はあ、と深くため息をつき、冬木がいるだろう家の壁を睨みつける。
 返信は後にしようとスマホをポケットにしまうと、いつの間にやら足元の猫が居なくなっていることに気が付いた。

「うーわ……まじで何なんだ、あの猫」

 鳥肌が立ってきた。ひょっとして猫の幽霊か何かじゃないだろうな。
 幽霊とかマジで勘弁してくれ。必死に真顔を貫いていたが、さっきのお化け屋敷、実は怖かったんだよ俺。

 いくら周囲を見渡せど猫は見当たらず、それどころか不規則に点滅を繰り返す街灯が薄暗い夜道を照らしているのが目に入って余計に恐ろしくなる。
 ひとまず、明るい駅まで全力で走ることにした。