何も言えず立ち尽くす俺をよそに、冬木は門扉を開けて軽やかな足取りで玄関へ向かっていく。鍵を回し、家のドアが開くと暖かい光がこちらまで漏れてきた。足元には冬木の影が細く伸びてきている。

 そして、その影がふと踵を返したことに気付き咄嗟に視線を上げると、玄関前で振り返り俺を見つめている冬木と目が合った。

「誠くん」
「どうした?」

 冬木の様子は一切の笑みすらない真面目なものだった。

「私、誠くんを助けるから。……絶対に」

 言うだけ言って、冬木は家の中に入っていった。
 扉が閉まるにつれ、足元に伸びる冬木の影が隠れていく。

「……どういうことだ?」

 影が完全に見えなくなった頃、そんな声が口をついて出た。
 やはり冬木千歳という人間はわからない。

 おちゃらけているかと思えば真面目になり、しかし何を言っているのかは汲み取れない。

「まあ、帰るか」

 考えてもわからないものは仕方ない。冬木が意味不明なのにはもう慣れた。考えるだけ無駄だということも経験として知っている。

 思考を放り投げて歩き始めると、ふいに足元から猫の鳴き声が。そこにはいつしか家の前で出会ったのとよく似た出で立ちの白猫が鎮座していた。

「うおっ、いつの間に」

 驚いてうわずった声をあげるが、白猫はそんなことを気にも留めていないようで、逃げもせずじっと俺を見つめている。