冬木と友達になれば、きっと毎日こうした話ができるのだろう。
 友達なんて作らないという決意が段々と揺らぎそうになる。冬木と接するのは面倒だし迷惑だが、実のところそれなりに楽しいのだ。

 しかし楽しいが故に、思い悩んでしまう。
 俺は冬木と友達になりたい。でも、なるわけにはいかない。冬木と関われば関わるほどその葛藤が激しくなってくる。

「今日は遊んでくれてありがとね!」

 やがて冬木の家につくと、門扉の前でお礼を言ってきた。俺の胸の内など知らず、無邪気な笑顔を見せてくる。

 家の中には家族がいるのだろう、白を基調とした家の窓からは暖かそうな橙色の光が漏れており、冬木の横顔を淡く照らしていた。

「また行こうね! 次は晴れてる日にもっとたくさん遊ぼ!」
「……またな」

 冬木の口から発せられた「次」という言葉のせいで、俺の返答はやや濁された。
 次などない。今回はたまたま雨で、たまたま返すべき礼があっただけ。
 俺が優先すべきはテニス、母さんとの約束が何よりも大事だ。

 もうお前とは遊ばない、ここはそう言って突き放すべきだろう。そんなこと、わかっている。わかっているのに口に出せない。それを言った自分を想像すると何故だかたまらなく嫌な気持ちになる。