「いやあ怖かったねー」
「怖がっているようには見えなかったが……」
「はい次観覧車ね!」

 程なくしてお化け屋敷を出るとまたしても強引に手を引かれた。
 他の客が少ないとはいえもう少しこの距離感の近さはどうにかならないだろうか。これでは傍から見たらただのカップルだ。

 そんな俺の心労など無視して、冬木はぐいぐいと進んでいく。腕が解放されたのは観覧車に乗り込んでからだった。手首にうっすら赤く痕がついてしまった。

「うっわあ、さすが観覧車! 高いねー。まだ頂上でもないのに」
「そうだな。お、あそこにあるのうちの学校じゃないか?」
「あっ本当だ! ミニチュアみたい!」

 観覧車の上から見下ろす景色は俺がまだ幼い頃に見た時とまるで変っていない。懐かしい光景に先ほどまでの冬木の強引さも忘れつい気が緩んでしまう。

「お腹空いた! 降りたらアイスクリーム食べよう!」
「はいはい」
「その次はトランポリンやりたい!」
「子供用だぞそれ」
「いいからいいから!」

 よくもまあそこまで楽しめるものだと感心してしまう。
 空は雲で薄暗いし人が少ないせいで遊園地全体がまるで廃墟のような雰囲気になっているというのに、冬木千歳というたったひとりの少女がいるだけでたちまち明るく賑やかな場所のように思えてくる。