実のところ、遊園地という場所はそれなりに好きなのだ。
 まだ母さんが生きていた頃、俺が小学生くらいの頃だったろうか、家族三人でよくここへ遊びに来ていた。

 入場ゲートを通って右手側にジェットコースターや観覧車等の乗り物、左手側には飲食店やお化け屋敷等の室内施設。あの頃と少しも変っていない、まるで過去に遡ってきたかのような光景だ。

 違うところがあるとすれば天候に恵まれていないことと、それに伴って客足が少ないことくらいだろうか。

「さて、どこから見て回――」
「お化け屋敷!」

 言い終わるより先に手を引かれた。ぐいぐいと一直線にお化け屋敷へと向かっていく冬木の表情はとても楽しげで、虫網を片手に昆虫採集をする少年のような無邪気さを感じる。

 おかしいな、お化け屋敷ってそんなに楽しそうに入る場所じゃないはずなのだが。

「うっわ、中は暗いねー!」

 屋敷に入るや否や場違いに明るい冬木の声が真横から響いてきた。

「そりゃあお化け屋敷だしな」

 隣にいてもぼんやりとしか姿を視認できない暗さだ。落とし物でもしたら二度と見つからないだろう。

「まるで誠くんみたいな暗さだ!」
「しばくぞこら」
「ぐぇへへ。ごめんごめん」

 わざとらしく気持ち悪い笑い声を出すな。
 お化け屋敷なんかよりもそっちの方がずっと心臓に悪い。

 横からの不気味な笑い声を無視して、屋敷内に設置された緑色の僅かな灯りだけを頼りに先に進んでいく。

 道中、ミイラ男や吸血鬼、口裂け女を模した仕掛け人があの手この手で俺たちに悲鳴をあげさせようと奮起していた。
 だが、「ミイラだ!」「吸血鬼だ!」「すごい!」とはしゃぐ冬木の前にいずれも敗れ去っていった。
 俺が従業員だったらやる気を無くしていた違いない。