あの手この手で絡んでくるから追い払っても仕方がない。そう言い訳して俺は自分を正当化しているだけだ。本当に追い払いたければいくらでも手段はある。

　簡単な話だ。本気で避けたければ怒鳴ればいい、もう俺に関わるなと眉間にしわを寄せればいい、屋上前に行かなければいい、無視を徹底すればいい。

　それらをせず、ため息をつきながらも冬木と会話をしているのは、俺が冬木に対して少なからず好意を抱いているからだ。それは決して恋愛的な意味ではなく、純粋な人としての好意。

　確かに冬木の存在は迷惑ではあるが、先日のテストの件といい世話になっているのは事実。それがなければ今頃本気で追い払っていたことだろう。

「あ、そうだ」

　ふと思い立った俺はおもむろに席を立ちあがると、窓際で空を眺める冬木のもとへ歩み寄る。

「おい冬木、今から出かけるぞ」
「え、今から？」

　そうだ、と首を縦に振る。
　うやむやになっていたが、テストのお礼をまだしていなかった。どうせ雨で部活ができないのだから恩を返すなら今が好都合だろう。

「お礼なんていいのに」
「仮入部の時みたいに恩を人質に脅されても困るからな」
「ぐっ……ちゃんと学習しているようだね」
「そりゃあな」

　あの時は手伝いを強要された挙句仮入部にも行けなかったからな。こいつからの恩は速やかに返していく必要がある。それに、施しを受けたままというのは単純に後味が悪い。恩を礼で返すのが人として当たり前の行動だ。たとえ相手が冬木でなくても俺はそうしていただろう。