「顧問の先生からの伝言……聞く?」
「聞かない」
「今日の部活、中止だってさ」
「やめてくれ」

 言われなくてもわかっている。悲しいが、ちゃんと現実を受け止めた。追い打ちは要らん。

「俺の……テニスの時間が……」

 膝から崩れ落ちるような勢いで椅子に腰を落とした。全身から力が抜けていくのがわかる。このまま力尽きて死んでしまいそうだ。

「この世の終わりみたいな顔だね……」
「そりゃあな」

 十月の県大会まで残り四か月しかないのだから、焦りもするさ。
 残り四か月。その間俺は何をしていた? 壁打ちと動画の確認だけだ。部活なんて数えるほどしかやれていない。

 テストも終わりやっとの思いで打ち込めると思った部活動も雨で台無し。これでは壁打ちすらままならない。

「そういえば今年の梅雨は長いらしいよ。なんでも八月頭まで続くとか」

 冬木は俺の後ろに立って、残業で疲れ果てたサラリーマンを労わるかのように肩を揉んできた。
 聞きたくもない情報を立て続けに吹聴してくるのは俺への嫌がらせなのだろうか。

「あと、これが一番大事なんだけどね」
「今度は何だよ……」

 俺の肩を揉みつつ、念を押すように言ってきた。

「雨で土砂崩れの危険があるから、注意してね」
「なんじゃそりゃ」

 何かと思えばそんなことか。