「四月の頭に学力テストがあったよな。部員三十八人中、何人が赤点を取ったと思う?」

 顧問が眉間にしわを寄せると、部内でもひときわ爽やかかつ真面目そうな先輩を指さした。答えてみろ、と言いたげな目だ。

「……十人くらいでしょうか?」
「馬鹿者! お前以外全員だ!」

 それを聞いた途端、こらえきれなかったのか先輩たちがいっせいに吹きだした。顧問の横では冬木を含む三人のマネージャーたちが必死に手で口を覆っているのが見える。

「おい! 笑うなよお前ら!」

 怒声を発しながらも、顧問もまた笑っていた。どちらかと言えば苦笑いに近いニュアンスだが。
 なんだこの雰囲気。厳しいとか言っていたくせにめちゃくちゃ緩いじゃないか。

「そこでな、俺は考えたんだ。どうしたらお前らの成績が上がるかって」

 顧問は腕を組み、うんうんとひとりで納得したように頷き始めたかと思うと、まるで名案かのようにとんでもないことを口走った。

「今月末に行われる中間テスト、あれで一教科でも赤点を取った奴はしばらく部活に来させないから、そのつもりでいろ」

 思わず耳を疑った。
 一教科でも赤点だったらアウト……嘘だろ。
 無理無理、絶対に無理。絶望しかない。

「しばらくって、どのくらいですか……?」

 おそるおそる訊いてみた。

「そりゃあお前、赤点回避できるようになるまでだろ」

 完全に血の気が引いた。
 なんて厳しい部なんだ……。

「それじゃ練習開始! 一年はまず――」

 かくして俺のテニス部生活が幕を開けたのだが、この調子では先が思いやられる。
 ――結局、今日は全く練習に身が入らなかった。