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 放課後になると校舎裏のテニスコートで冬木が準備運動を始めた。朱色のジャージを肘までまくり、意気揚々と励んでいる。

「こいつ、マジで入部しやがった……」

 頭痛のせいで記憶が曖昧になっていたのに、そこだけは忘れていなかった。一番忘れたい部分だったのに。

「集合!」

 顧問が笛を吹くと、部員たちがぞろぞろと顧問の前に集まってくる。冬木をはじめとしたマネージャーたちは顧問の横が定位置だ。

 もう仮入部などではない、いよいよ本格的に活動が始まるのだ。
 整列した部員たちはひと言も私語を漏らすことなく顧問の言葉を待っている。

 これだ、この運動部という感じがたまらない。
 やっと練習ができるのだと思うと心が躍る。この学校のテニス部はそこそこ規模が大きく、部員数は四十人近くもいる。他校は二十人程度なことを考えると実に二倍だ。おかげでコートも八面とこれまた他校の倍もある。

 ゴリラのような体格をした強面の顧問は品定めでもするように部員の顔を見渡した。

「今年は一年が多いな。言っておくが、うちの部は厳しいぞ」

 ドスの利いた低い声が鼓膜を叩く。
 望むところだ。こっちはそれ目当てで入部したのだから。

「特に厳しいのが、成績だ。うちの部はみんな成績が厳しい」

 ……ん?
 厳しいって、そこかよ。