そういえば俺、全然テニスやってねえ。
 思い返してみればそうだった。朝と昼のフォーム確認は冬木に邪魔をされ、仮入部も冬木に邪魔をされ、休日には冬木と買い物に――って、ほとんど冬木のせいじゃねえか。

 隣の人物に恨みのこもった眼差しを向けるも、冬木は購買で買ったであろうメロンパンを幸せそうに頬張るばかりで一向に俺の視線に気付く気配がない。

 仮入部期間だからと許していた俺がバカだったようだ。
 はあ、と特大のため息が出る。

「あ、そういえば誠くん」
「なんだ」

 ため息に反応したのか、突然冬木が話を切り出してきた。

「私、テニス部のマネージャーやるから!」
「は!?」

 こいつ、今なんて言った?

「もう一回頼む」
「テニス部のマネージャーやることにした!」

 信じられない。聞き間違いだ。

「も、もう一回……」
「誠、諦めなさい」

 みなみに哀れみのこもった目を向けられた。
 いや違う、この目は哀れみなんかじゃない、むしろめちゃくちゃ喜んでやがる。

「さてはみなみ、お前の差し金だな?」
「何のことやらー」

 ご機嫌そうに誤魔化すみなみの態度は、その通りですと自白しているようなものだった。