◇ ◇ ◇
 
 午前の授業を終えると俺は屋上前に向かうべくおもむろに階段を踏みしめた。隣にはいつも通りハイテンションな冬木がいる。

「レッツお昼ご飯!」
「はいはい」

 こいつが居るのはもう諦めた。どうせ断ってもついてくる。

「誠くん! 早く早く!」

 一段ずつ上がる俺と、ご機嫌そうに一段飛ばしで駆け上がる冬木。踊り場に出るたびに俺の方へ振り返っては早くしろと急かしてくる。

「慌てるなって」

 それにしても今日はいつも以上に騒がしいな。うん、嫌な予感がするぞ。
 直後、屋上前に辿り着いた俺は自らの予感が正しかったのだと理解した。

「お、きたきた。昨日ぶりだね千歳ちゃん」

 目と鼻の先では階段に腰かけたみなみが微笑みながら手を振っていた。ご丁寧にピンクのひざ掛けまで用意してある。しかも人数分。
 どうしてみなみがここに、などと疑問に思う間もなく俺は冬木を睨みつけた。

 みなみにこの場所を話したことはない。うっかり話したのを忘れたということもありえない。もし話せばこいつは昼休みのたびにここに来るだろう。だから意図的にこの場所については黙っていた。

 だというのにみなみがここにいることは、そういうことだ。

「おい冬木」
「わ、わー凄い偶然だーこんなところでみなみちゃんに会うなんてー」

 俺から露骨に目をそらしつつ、冬木はロボットのようなかくついた動きでみなみの隣に逃げ込んだ。
 こいつ、嘘つくの下手くそすぎるだろ。