「えっと、あの、どうかしたか……?」

 言葉も出ないくらい驚かせてしまったのだろうか、だとしたら申し訳ない。
 俺は身長が百八十近くあるし、小柄で弱気そうなこの子からしたら熊にタックルでもされた気分だったのかもしれない。頭ひとつ以上も背丈に差があるのはさぞや恐怖だろう。

 やがて女の子の目が潤んでいくのが見えて俺は内心冷や汗をかいた。

「す、すまん! 完全に俺の不注意だった!」

 焦って謝るも、それでも女の子は固まったきり動かない。
 どれくらい経っただろうか、再び時間が動き始めたのは後ろにいたみなみが遅れて俺に追い付いてきた頃だった。

 目の前の子は胸元のネックレスを力なく握ると、まるで祈るように俯き、そして何かを呟いた。

「……ほんとに――い――てる」
「……うん?」

 あまりにもか細い声は、周囲の生徒たちの声で容易くかき消されてしまった。同時に、背後にいたみなみが俺を押しのけて女の子に詰め寄った。

「うわ、誠なにしてるの! 女の子泣かせちゃダメでしょ!? ごめんね、大丈夫だった?」

 気まずい。俺の不注意が招いた事態とはいえ入学早々ついていない。
 しかし、涙目だったのが一転、眼前の少女は何やら唐突に笑みを浮かべ始めた。