「――っ」

 唐突に、頭に痛みが走った。
 ずきずきとこめかみが悲鳴をあげ、頭の中は割れたガラス片が突き刺さるような鋭い痛みで埋め尽くされている。

 頭を押さえて痛みに耐えていると、脳内で誰かの声が聞こえたような気がした。いや、聞こえたというより流れたと言うべきか。

『――私、友達から――なんて―――宝物に――』

 痛みのせいで頭の中を流れる声に集中できない。だが、聞き覚えのある声だ。
 耐えるようにうずくまっていると、やがて嘘のようにぴたりと痛みが引いた。

「何だったんだ、今の」

 万が一命に関わるような病気だったとしたら恐ろしい。

 だめだ、痛みのあまりさっきまで何を考えていたのかよく思い出せない。
 確か、悪夢を見ていて、それで夢の中に――。

「あれ……?」

 ――俺、どんな夢を見たんだっけ。

 何も思い出せない。
 どんな夢を見たのか、その夢を見た自分が何を思ったのか、何ひとつわからない。

 ただ、大切な物が手の平からこぼれ落ちていくような感覚だけが、俺の胸を満たしていた。