正直、母さんとの約束に執着する自分を異常だと俺は思っている。
 つまるところ県大会で優勝するという約束に執着するのはただの自己満足だ。みなみの言うように、亡くなった母さんは俺が友達のひとりも作らずテニスだけをやるよりも賑やかな学生生活を送ってほしいと思っているかもしれない。

 だが母さんが何を望んでいるかなど、母さん以外に知る由はない。死人に口なしというやつだ、遺言でもない限り真実は闇の中。だから俺は遠い昔に交わした約束にいつまでも縋りついてしまう。

 わかっているんだ。それでも、引き下がれない自分がいる。
 これまで何人もの友人を捨ててきた。そのたびに傷つけて、自分も傷ついてきた。

 今更自分が間違っていましたなどといって軽々しく友達なんて作れるはずがない。最初にひとりの友人を捨てた時点で、もう後戻りはできない。

 だから俺はやはりテニスをやるしかないのだと思う。
 母さんとの約束を果たして、しがらみから解放されて、そこで初めて前を向ける。

 もしそうなった時、俺は一体どうしたいのだろうか。
 考えた瞬間、奇妙なことに真っ先に冬木の顔が脳裏に浮かんできた。楽しげに笑う冬木と過ごす自分をつい想像してしまう。
 もしかしたら、俺は冬木と友達になりたいのかもしれない。