たまには息抜きしたらどうだ、なんてみなみは言ったが、息抜きどころか余計に疲れたぞ。今だって俺だけふたりの正面に立たされている。ベンチの両サイドを大量の買い物袋が埋めているせいで俺が座るスペースが全くないのだ。

「誠くんもみなみちゃんも今日はありがとう!」

 俺の心中などつゆ知らず、冬木は心底満足そうに無邪気な笑顔を浮かべている。
 本当に、心の底から楽しそうな顔だ。

「まあ、俺も買い物はできたし……」

 悪態のひとつでもつきたい気分だったのだが、冬木の顔を見ているとどうしてか責める気にはなれなかった。
 退屈だったはずなのに不思議と「まあいいか」と許してしまえる。悔しいが、可愛いというのはこういうときに得だからずるいと思う。

「さーて! そろそろ帰ろっか!」

 ドリンクを飲み終えた冬木が立ち上がったのを合図に「そうだな」「だね」と各々が帰り自宅を始める。

 モールの外はすっかり真っ暗だったが、街灯と周囲のビルから漏れる光のおかげで足元に不安はない。
 お昼同様、今回も俺はふたりの後ろを歩いていた。例のごとく会話は無かったが、疲れていたから今度ばかりはありがたいと思えた。

 やがて駅前につくと冬木ははっと何かを思いついたように振り返ってきた。

「そうだ! ふたりとも連絡先教えて!」

 また面倒なことを。

「ごめん、実は私携帯持ってないんだよね……家が厳しくて」
「そっかあ……」

 どう断ろうか悩む俺の横でみなみが申し訳なさそうに眉を下げる。スマホは便利だしもはや手放せないアイテムだが、今この瞬間だけはみなみが羨ましい。