「どうして俺なんだよ。他に暇そうなやつたくさんいるだろ」

 冬木が他の男子にお願いすればみんな張り切って手伝ってくれると思うぞ。

「だって、他の人に手伝ってもらうのってなんか申し訳ないじゃん?」
「ほう、俺ならいいとでも?」
「うん!」

 ぶっ飛ばすぞ。
 ……ってのは冗談で、困ったな。

「もともとは図書委員の仕事だろ? 図書委員にやらせろよ」
「図書委員の子は今日から仮入部だからそっち優先したいんだってー」
「俺も今日から仮入部なんだが?」
「知ってるよ?」
「俺は行かせてくれないのか」
「うん!」

 ぶっ飛ばすぞ。
 というのは半分冗談で、まいったな。どうやってこの場を切り抜けようか。
 テニス部の初顔合わせまであまり時間がない。自由参加とはいえ初日から遅刻するのは勘弁だ。

 仕方ない、ここは強引に走り去るしかないか。

「すまん! それじゃ!」

 冬木の横を通りすぎ、急ぎ足で教室を出る。
 背後から恨めしそうな声が聞こえてきたのはそれとほぼ同時だった。