放課後、ついに仮入部の時がやってきた。
 ――と、思っていたのだが。

「誠くん、ちょっと手伝ってほしいことがあるの!」

 満面の笑みを浮かべる冬木に引き止められた。声をかけられるより先に教室を出ようとしたのに、いとも簡単に俺のスピードを上回ってきた。

 手伝ってほしいこと、か。
 今朝の一件もあるし、ちょっと断りづらいな。

「断る」

まあ断るんだけど。

 朝は心配したがその後は元気そうだったからな。
 俺には部活という大義名分もある、断るには充分すぎる要素だ。

 今はまだ関わるなとは言わない。ただ、妥協もしない。今日はテニスに専念させてもらう。

「そこを何とか!」

 両手を合わせて頭を下げてきた。
 なんでも、図書委員の代わりに本の整理をするよう頼まれたんだとか。
 そんなもの断ればいいのにと思ってしまうが、こいつのことだから後先考えずふたつ返事で了承したのだろう。基本的に冬木千歳という人間は良い奴なのだ。

「悪いな、俺これから仮入部なんだ。それじゃ」
それでも、俺はわざとらしくラケットケースをちらつかせて言ってやった。
「私のこと見捨てるの!?」
「うん」
「行かせませんぞ!」

 容赦なく立ち去ろうとする俺の前に頬を膨らませながら立ちふさがってきた。大量の餌を頬に詰め込んだハムスターみたいな顔だった。