「さーてと! 私は一足先に教室に戻りますかな! 話聞いてくれてありがとね! 元気出た!」

 冬木は立ち上がってスカートの埃を払うとリズミカルに階段を降りて行った。
 その後ろ姿が見えなくなり足音も聞こえなくなってから、俺は本来言うはずだった言葉をひとり呟いた。

「……関わらないでくれ、かあ」

 この様子じゃあしばらくは言い出せそうにないな。
 俺がやろうとしていることは間違いなく相手を傷つける行為。今までだってそれで何人もの人と疎遠になった。

 それらを受け止め、覚悟した上で徹底してきたつもりだった。
 でも――。

「涙なんて見せられたら、言えるわけないよな……」

 俺はどうするべきなのだろうか。

「まあ、今は考えなくていいか」
 
 それが問題を先送りにしているだけなのだとわかっていながら、俺にはどうすることもできなかった。