入学して約一週間、桜はもうほとんど散っていて、地面を彩る花びらたちも日に日に層が薄くなっていた。
朝練の生徒たちが登校するような時間なのもあってまだ眠い。しかし正式に入部すれば毎日この時間に通うことになるのだ、今のうちに慣れておかなければ。
程なくして学校につくと、俺は教室には目もくれず一直線に階段を駆け上がった。今日は始業時間まで屋上前で過ごすつもりだ。
踏み外さないよう足元に注意して二階、三階と駆け上がる。そして四階と屋上の中間、ちょうど階段の踊り場に差し掛かった時、ふと上方から物音が反響してきた。
先客かと思い視線を上げると――。
「げ」
そこにはこの一週間ですっかり見慣れた人物が立ち尽くしていた。
後ろ姿で顔こそ見えないものの、間違いなく冬木だ。
困ったな。いやでも、かえって好都合かもしれない。
そうだ、今言ってしまおう「俺に関わらないでくれ」と。
出会って日が浅いし、母との約束までは語らないにしてもテニスに集中したい旨だけでも伝えるべきだ。
「おい冬――」
しかし、声をかけようと手を伸ばした瞬間、絶句した。
俺の存在に気付いてこちらへ振り返った冬木を前に、伸ばした腕が行き場を失って固まっていた。
――どういうわけか、目の前では冬木千歳が涙を流していた。
朝練の生徒たちが登校するような時間なのもあってまだ眠い。しかし正式に入部すれば毎日この時間に通うことになるのだ、今のうちに慣れておかなければ。
程なくして学校につくと、俺は教室には目もくれず一直線に階段を駆け上がった。今日は始業時間まで屋上前で過ごすつもりだ。
踏み外さないよう足元に注意して二階、三階と駆け上がる。そして四階と屋上の中間、ちょうど階段の踊り場に差し掛かった時、ふと上方から物音が反響してきた。
先客かと思い視線を上げると――。
「げ」
そこにはこの一週間ですっかり見慣れた人物が立ち尽くしていた。
後ろ姿で顔こそ見えないものの、間違いなく冬木だ。
困ったな。いやでも、かえって好都合かもしれない。
そうだ、今言ってしまおう「俺に関わらないでくれ」と。
出会って日が浅いし、母との約束までは語らないにしてもテニスに集中したい旨だけでも伝えるべきだ。
「おい冬――」
しかし、声をかけようと手を伸ばした瞬間、絶句した。
俺の存在に気付いてこちらへ振り返った冬木を前に、伸ばした腕が行き場を失って固まっていた。
――どういうわけか、目の前では冬木千歳が涙を流していた。