「猫?」
「ああ」

 風で揺れる髪を抑えるみなみを尻目に、今しがた猫がいた場所に視線を戻すも、そこに白猫の姿はなかった。音もなく立ち去るとはまったく不気味な猫だ。

「いないよ?」
「いないな」

 まあどうでもいいことだとすぐに歩き出した。そんな俺に慣れているみなみもまた、何食わぬ顔で横に並んでくる。

「いよいよだね」
「だな」

 何がいよいよなのか、主語のない言葉に頭を悩ませることもなく軽く頷いた。
 いよいよ高校生、という意味合いだろう。みなみの表情は固く、どことなく緊張が感じられる。

「誠は緊張したりしないの?」
「しないな」

 それもそのはず、学校は徒歩十分の距離にある。昔から何度も近くを通ったことがあるし、この制服だって小さい頃から街中で散々目にしてきた。俺からしてみれば地元のスーパーに買い物に行く程度の軽い感覚だ。緊張感など微塵もない。むしろ緊張しているみなみに何故と問いたくなる。

 住宅地の歩道をしばらく歩くと、やがて桜並木の開けた道に出た。
 しかし桜は既に枯れかけており、本来一面アスファルトでできているはずの地面をピンク一色に染め上げている。それもまた風情というものなのだろうか、みなみは緊張しつつもどこか楽しげだ。

 ここまで来れば学校はもう目と鼻の先。あたりを見渡せば同じ制服をまとった生徒たちがちらほらと目につく。