意図こそ不明なものの、クラスに馴染まない俺にこいつだけは積極的に声をかけてくれている。その時点でまず良い奴だ。普通は俺のような陰キャの相手をする人間なんていじめっ子くらいだからな。

 それにクラス委員を決める際、迷うことなく挙手したことから責任感があることもわかる、良い奴だ。

 そしてこいつは事あるごとに俺に助け船を出してくれる。
 あまり成績が優秀とは言えない俺は授業が始まると当然のように困った。授業中、教師にあてられないことを全力で祈る程度には。

 だが、祈れば祈るほど引き寄せるようにあてられてしまうのだ。
 そんな時、こいつはいつも俺を助けてくれる。
 先生に訊ねられた問題の答えがわからずに困っていると、俺にだけ聞こえるように答えを教えてくれるのだ。

 俺と同類の馬鹿だと思っていたのにその実頭がいいというのは何だか裏切られたような気分だが、それでも助けてもらっているのは事実、素直に感謝している。

 ただひとつ不満があるとすれば俺に付きまとうことくらいだ。それも、理由が全くわからない。しかも最初は「財前君」と呼んできていたのに、いつの間にか名前で呼んでくるようになったし。